SFNS, Lab. of Physics HOMEPAGE
概説1
概説2
概説3



研究内容

[研究題目]
1) 暗黒エネルギーと宇宙定数
2) 5次元量子電磁場のカシミアエネルギーと新しい正則化法

[研究要旨]
                        (「  」部分は専門用語である。)
 あらゆる分野の最先端を目指すには常に新しいアイデアと技術が要求される。表題のテーマの内容には、幾何学に基づくアイデアと最先端数理解析技術(コンピューター技術を含む)がある。特に、ナノサイエンス領域では強力な道具になると思われる。最先端研究、最先端技術には原子物理とその周辺の数理物理の素養が不可欠である。
 真空中に二枚の完全導体平板を間隔Rだけ離し、平行におくと、導体間には「真空分極」という量子効果のため引力 F=―(hc/R^4)S が働くことが理論的にも実験的にも確かめられている(カシミア効果1948)。この力は1)平板間距離の4乗に逆比例していることからわかるように、「マクロな量子効果」である、2)電荷に依存しないことより、電磁相互作用ではなく、純粋に導体平板の「境界条件」が力を引き起こしている、3)「引力」である、などの非常に興味ある性質を持っている。
 5次元統一モデルの代表であるKaluza-Klein理論(1921,1926)は、余次元空間(半径Rのサークル、輪)に於いて間隔R離れた2つの4次元世界(通常我々の認識する世界)を取り扱っているとみなせる。上記カシミア力がこの2つの世界(4次元の境界)間に引力として働く。その結果Rの大きさが縮まるが、「量子重力」の効果で「プランク長」より少し大きいところで止まると期待されている。このシナリオは現在の高次元統一モデルの標準となっている。
 弦理論、D-brane理論に触発され、 Randall-Sundrumモデル(1998) が提出され、高次元場の理論としての「ブレイン」の取り扱いがわかるようになった。従来のKaluza-Klein(KK)理論との比較を既に行った。特徴は余次元サイズRの他に、ブレインの張力に相当する質量スケール k が導入される点である。Rとkのいろいろな場合で、5次元伝播子(場を量子化した時、各点での振動モードの連なりを表す)を調べた(2007)。余次元でのパリティ変換(y → −y)とy=0での特異性の関係を明らかにした。KK展開によらず、閉じた形のままで、カシミアエネルギーなどの物理量を調べることができる。「運動量Cut Off」 Λ を導入し「正則化」すると、この量はΛ^5で発散している。これは5次元理論が「くりこみ不可能(unrenormalizable)」であることを示している。そこで新たな正則化を導入する。弦理論で行われる「最小面積原理」を正則化として採用するのである。これに近いものは Randall-Schwartz (2001) により試みられているが、いろいろ問題があった(「くりこみ関数」がΛ-dependent等)。ここではそれらの欠点がないものを考えている。
 従来高次元(5次元以上)理論はくりこみ不可能で、「紫外発散」の取り扱いに関し、手つかずであった。(大方の立場は背後に、より基本的理論(「弦理論」など)があり、その有効理論とみなし、この問題を無視している。)ここでは真っ向からこの問題を捉えている。
 2009年秋よりCERNで本格稼働するLHC実験のためにも、上記のことを「電弱相互作用」や「強い相互作用」に応用し、高次元モデルからの実験値予測を信頼できる形で行いたい。また蓄積しつつあるWMAPの「宇宙背景輻射」のデータは宇宙モデルを詳細に決定している。しかし暗黒物質、暗黒エネルギー、宇宙項など現在謎だらけの部分が多い。量子重力や高次元モデルなどの超標準モデルがどのようにこの宇宙の神秘を解き明かすのか期待したい。
 高次元の場の量子化に際して新しい正則化を提唱している。通常(4次元)の量子電磁場に於いて、電子の磁気双極子モーメントを理論的に求めるには、運動量積分における紫外発散を「くりこみ処方」を使い取り除かねばならない。高次元の場合、このくりこみ処方が未知である。ここではその処方に当たるものが「最小面積原理」になると主張している。過去の文献で得られているいくつかの高次元物理量をこの方法で再現できることを確認した。KK展開によらす、閉じた形(非摂動)で計算を遂行するため、コンピューターによる数値計算に頼る部分が大きい。

 以上の結果は下記に発表されている。

[原著論文]など
[原著論文]
1. Ichinose, S. : Casimir Energy of 5D Electromagnetism and New Regularization Based on Minimal Area Principle
arXiv:0801.3064(hep-th), 40 pages
2. Ichinose, S. : Casimir Energy of 5D Electro-Magnetism and Sphere Lattice Regularization
Int.Jour.Mod.Phys.23A(2008)2245-2248
3. Ichinose, S. : Casimir Energy of 5D Warped System and Sphere Lattice Regularization, arXiv:0812.1263(hep-th), 47 pages

[会議録]
1. Ichinose, S. Casimir and Vacuum Energy of 5D Warped System and Sphere Lattice Regularization
Proceedings of VIII Asia-Pacific International Conference on Gravitation and Astrophysics, (Aug. 29-Sep.1, 2007,Nara Women’s Univ., Japan), p36-39, ed. M.Kenmoku and M.Sasaki, 2008.

[国際会議、学会およびシンポジウム]
1. 一ノ瀬祥一: Vacuum and Self Energy in 5D Theories and New Regularization 日本物理学会(近畿大、東大阪)、2008年3月、
2. Ichinose, S. Casimir Energy of 5D QFT and Cosmological Constant Problem Summer Institute 2008, Aug.10-17,2008, Chi-Tou(渓頭), Taiwan
3. 一ノ瀬祥一: 五次元場の理論の量子化と最小面積原理
日本物理学会(山形大、山形)、2008年9月
4. Ichinose, S. Casimir Energy of AdS5 Electromagnetism and Cosmological Constant Problem
International Conference on “Particle Physics, Astrophysics and Quantum Field Theory: 75 Years since Solvay”, Nov.27-29, 2008, Nanyang Executive Centre, Singapore

[研究会トークなど]
1. Ichinose, S.:Casimir Energy of Kaluza-Klein Theory and the Cosmological Constant of the Universe
研究会講演、東京大学宇宙線研究所、理論研究会「初期宇宙と素粒子標準模型を越える物理」2008.12.9
2. 一ノ瀬祥一、五次元場の理論の量子化と新しい正則化、京都大学基礎物理学研究所、研究会「量子場理論と弦理論の発展」、2008.8.1